すべてがある
もうずうっと、雨が降りつづいている。つよくなったり、よわまったり、いそがしいわね、なんて空を見上げて息をつく。
ひどくねむたいのに、まぶたをとじないわたしは、残り二本の煙草に指を伸ばして、火をつけた。テーブルの上では白檀香のけむり、スピーカーからは、まるで大木のような女の歌声。借りたばかりの本は、まだ一頁も読んではいなくて、題名の皮肉なのか、外側から鍵がかかったままのようだ。わたしの部屋には、内側から鍵が。
泥棒、という職業があるだろうか。
或いは盗っ人、或いは空き巣でもいい。職業として。例えば、映画やアニメーションなんかで、手品のように厳重な金庫の鍵なんかを開けてしまう人物がいたりする。そういうひとは、誰かの心の鍵なんかも、軽々と開けてしまえるのだろうか。創作物が、それをつくった人物をそのまま表しているように感じることは、よくある。そういう、なんか、そういう、かんじで。どうなのだろう。
誰かが、自分に会いにきてくれる、ということを、うれしくおもう。なんだか、ふと、ああわたしは生きていていいのだ、と感じた。いろいろなことが、有難くて、申し訳ないようにも感じるのだけれど。
ほんとうに、わたしは風船みたいなやつだ、そうおもう。それに、聖徳太子みたいにはなれそうもなく、ドジだから忍者もだめかな。
うだうだと、鏡に向かって御託をならべてみたけれど、きっといちばんだいじなのは、自身の気持ちなのだ、やっぱりそこに辿り着いた。
ケーキを、つくった。
甘酸っぱい、はじめての。
料理をするにあたって、自分の中での決めごとがあるので、それだけは、まもりぬくんだ。
ひどくねむたい。