ひとつふたつみっつ




一冊の本。

一章と二章、とに分けられているが、流れている月日時刻場所などは、はじまりからおわりまで、まったく同一のもの。目線が違うということで、読み手側は2つが異なる物語だと錯覚する、或いは実際にすべてが異なっている。


四つの眼球、四つの耳、二つの口唇、二つの鼻、四十本の指。それらの数すら、実際は定かで無いという意識。それをもっているべきだよ、と右耳元で囁く女。




空を飛ぶ魚になる夢。

地上に立っているくちばしをもつ青年には耳がなく、わたしたちは視線だけで会話ができる。きょうは、果物をもってきたよ、と彼の目は微笑む。わたしはリスの毛皮9匹分であなたに襟巻きをつくったの。

ものすごくあったかいね。

これは蜜蜂のあじがするわね。

くまと仲良くなったんだ。

わたしはリスと喧嘩したの。

おなかがへったよ。

あなたも食べれば?

空は湿気を含んでいて、いつまでもじっとり、重たい。羽根にあぶらを塗らなくちゃ、それがわたしの口癖。彼のくちばしはきれいな黒。





まぶたのおもりに右往左往。

ぐっすりねむれそう。