マールボロ




欲求とは、得てして泥沼のようだとおもう。一歩、足を踏み入れる、ずぶずぶずぶ、いつの間にやら深みにはまり、あれまあ、ごぼごぼ、
あるひとは、ほんじゃー泳いでみるか、などと泥塗れの姿でへらへら鼻唄まじりに犬かきなんか始めてみる。またあるひとは、あーもうだめだ、死のう、と目蓋を閉じて最期を待つ。またあるひとは、ぜってーここから脱け出す、まじで泥も沼も天も地もゆるさねえ、などと躍起になりもがき、あれ、なんだっけ、

そう、欲求について思考していたのだった。わたしがいちばん恐れているものは、緑色した魔物だ。幼いころにみたあいつと、関係があるのかもしれない。


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ぽつぽつ、唇の隙間から水滴を垂らすように、あるひとは話し始めた。他のことをかんがえることもなく、その話を聞いていたわたしは、あのとき、ただうれしく感じた。まっすぐの筒を液体がすっと流れるみたいに、ことばの粒がつながってしみこんでくるかんかくがして、すごくふしぎだった。ことばが、いつだって必要なわけではないと、経験をもってそうおもうけれど、ことばで埋まる空洞はあるのだと、そうかんじた。


自分の首を絞めるようなことは、できるだけしたくないね。目の前に人参を自らぶら下げて延々と走りつづけるみたいな。うんざり。峠を越えても山とか谷とか斜陽とか、

ある曲をくりかえし聴いていたら、だけどわたしはいつでも、ころされるのを待ち望んでいるんじゃないか、とさえおもってしまって、感覚を立体化するようにしてみたら、ものすごくきもちよくって、ちょっとわらった。そう、そういうかんじで、



もうすぐ満月だからか、ちょっとへんなかんじ。いつでも月から逃げきりたいくせに、たぶん、わたしは振り返る。
信号は、ずっと黄色で、
赤になる前に走れ?
それじゃ、だるまさんも、転べないじゃない。
トマレ?
ヤダ。