都会の冬
ふと目をさまして窓の外をみると、雪がつもっていた。まだ、ほの暗い中でも、白はくっきりとまぶしい。
ゆうべは、しん、としていて、あまり寒さを感じなかったようにおもう。ああ雪がふるなあと、ぼんやりかんじていた。
そのドアをひらくと、しっているにおいがした。わたしはここに訪れたくてたどり着いたのだとわかった。
いつものようにビールを頼むと、店主は瓶をあけてグラスに注いでくれる。泡のつぶと、あたたかい室内の空気は、おなじものではないのだろうか。
はじまりのピアノの音で、ああ、いつもの、そうおもった。いつのまにか、わたしのなかに、しっかりしみこんでいた一夜の音たち。
なんども耳にしているのに、どうしてか、ゆうべはことばのつぶが頭の中を駆け巡った。
「今日が命日なんだよ」店主がぽつり、ぽつり、話してくれた。記憶の温度が、つたってきて、こめかみがじんとしてきて、
故に、ウイスキーを呑みすぎたのよ。ちょっと長い関係のブルース、だなんて。
悪夢ばかりみるねこの寝息と、雪を溶かす雨の音、換気扇の回りつづける音と、亀がぱしゃぱしゃばたつく音と、わたしのお腹の虫の声、
静かであたたかい、賑やかな朝。
わたしはわたしを、みつけつづける。