たまごがひとつ。
ここに重力は無いようだ。
遠近感もつかめない。
両手で包んでいたはずなのに。
かたいかやわらかいか、
うすいかぶあついのか、
手触りもわからない。
「 冷静に、」
耳元で誰かがささやく、
よくしっている声だ。
そう、冷静に。
たまごがひとつ。
中身は?
からっぽかもしれない。
可愛らしい雛が眠ってるかも。
それとも、角をはやした緑色のあいつが、潜んでいるのかも。鋭い角の先で殻の内側からちいさな穴をあけて、真っ黒い目でこちらをみているのかも、息をころして。
踏み潰そうか、思いきり。
「 ねえ、聞こえてる?」
うん、よく聞こえてるよ。