都会の冬




ふと目をさまして窓の外をみると、雪がつもっていた。まだ、ほの暗い中でも、白はくっきりとまぶしい。


ゆうべは、しん、としていて、あまり寒さを感じなかったようにおもう。ああ雪がふるなあと、ぼんやりかんじていた。



そのドアをひらくと、しっているにおいがした。わたしはここに訪れたくてたどり着いたのだとわかった。

いつものようにビールを頼むと、店主は瓶をあけてグラスに注いでくれる。泡のつぶと、あたたかい室内の空気は、おなじものではないのだろうか。 


はじまりのピアノの音で、ああ、いつもの、そうおもった。いつのまにか、わたしのなかに、しっかりしみこんでいた一夜の音たち。

なんども耳にしているのに、どうしてか、ゆうべはことばのつぶが頭の中を駆け巡った。


「今日が命日なんだよ」店主がぽつり、ぽつり、話してくれた。記憶の温度が、つたってきて、こめかみがじんとしてきて、

故に、ウイスキーを呑みすぎたのよ。ちょっと長い関係のブルース、だなんて。





悪夢ばかりみるねこの寝息と、雪を溶かす雨の音、換気扇の回りつづける音と、亀がぱしゃぱしゃばたつく音と、わたしのお腹の虫の声、

静かであたたかい、賑やかな朝。

わたしはわたしを、みつけつづける。









ゆめくい



朝、ねむたくならなくて、ひさしぶりにインターネットをサーフィンした。波は、まばら。いろんな情報がひしひし、していて、凝り固まったり、ぐんぐん、流れていったり。つぶつぶが、うごいて、いつかみた、宇宙から眺めた地球みたいだとおもった。はなれて、ちかづいて、そうすれば、いろんなふうにみえる。

万華鏡も、そうだったな。角度を変えて、まわして、まわして、びっくりして、まわして、きれいだった。

なんでもよくにている。




きのうは、ずいぶん、ぼんやりしていたみたいで、仕事にいくのに、サンダルみたいな靴を履いていって。帰り道、すごくさむくて、かかとが取れるかとおもったけど、生きてるな、よしよし、なーんて頷いてしまうくらいのわたしだから、ここまで生きてこれたのかもしれない。もしも、かかとがほんとうに取れてしまったら?子鹿みたいな歩き方に?それとも、ゆらゆら、天秤のように?なーんていうことばかり、想像する。で、どうするの?

粘土、買いにいこうか。ぺたぺた。



まだまだ、さむくなる冬。雪は、ふるだろうか。





1秒後に死んじゃうかもしれないんだし、それより先の未来を悲観するのはやめようとおもう。

たいせつなものなら、すこしだけ、それでわたしにはじゅうぶん。





不良少年のめだまは、なきたくなるくらい、きれいなんだよ。

覗いてみたい、万華鏡。





告げ口心臓




きのうの朝、東京に雪がふった。

友人からの知らせを目にして、外にとびだすと、頬がゆるんだ。ぱしぱし、顔におちてくる水っぽい白いつぶ。浮き足立っているのが、はずかしいくらいにわかって、首がすくんで、亀みたいねとまたわらって。



きのうの夕方、傘をもらった。

誕生日おめでとう、なんていう理由で、首をかしげたけれど、それをひらくと、瞳孔までひらいて。雨でも晴れているような、こまっちゃってわらっちゃうような、すてきな贈り物で。だけどゴッホも眉間にしわをよせて苦笑いするだろうな。


贈り物をうけとって、そのうらがわに、相手の感情をみつけたりすると、鼻の奥がぎゅ、っとする。


それに、傘と手袋と葡萄酒の共通点をみつけて、うれしいのであーる。

これは、なぞなぞです。




届かなかった手紙とか、忘れられちゃった約束とか、どうして?とか、かなしいとかむなしいとか、あるけど、まずはやることやらなくちゃ、とおもって。

360°、ぐるっと見回して、


また、食指がコントロールできなくなってきてる。おなかがへっているのに、食べたいものがわからなくて、今朝から何も口にしていない。

電波がぴしぴし、散っていく。

だけどわるくはないキブン。




これから、どこへいこう。

チョコレートをポケットに、

くるった時計を腕に、





白を汚すのはいつだって人間。





かいだん



のぼってるのか、おりているのか、どちらかはわからないけど、秒針がすすむみたいに、すべてが変化しつづけている。わたしの時計はちょっとくるっているみたいだけど、それもいいか、なんておもう。だいじなものは、こわれたってだいじなものにかわりない。そんな玩具とか、ギターとか、ライターとか、あって。




1、2、3、の次は、6、かもしれないし、32、かもしれなくて、あ、い、う、の続きは、み、かも、それか、ぴー、とか、しゃー、かもなっておもって、あたまがシューシューいいはじめて、けむりぱっぱのボカン。

こういう性格はめんどうくさい、けどたのしい気もするからおっけい。


つかれるんだよ、そう、つかれちゃって、脳幹もっと細くなりませんかね?海馬さんてば働きすぎだから温泉旅行でもいってくれば?シナプスぷちぷち潰していいの何個まで?とか話しかけてるうちに、もひとつボカン。おバカさん。




ああわたしはずっとねむっていたのかも、って、とつぜんおもった。

人間がパズルだとしたら、だいじな1ピースだけが行方不明で、どうしても身体が動かないどうしたらいい、みたいなかんじだったけど、こういうの、だれにもわからなくていいとおもってる。そのことにずいぶん時間が経ってきづいて、その1ピースは目にみえるんだけど、どうしても指先は届かなくて、まだ夢の中、まどろんでるかんじ。わるくない。

時計、やっぱりくるってるね。




つぎの夜がきたら、どこへいこう。

時空の歪んだあの街で、流れ者にでもなろうか、なんて。ねこたちがあそんでいるかもしれないし。



かなしみは絶え間無い。

そんなこと、17歳のときからしってたよ。だから、だいじょぶ。




まぶたに小人がぶら下がってる。

いたずら禁止。











ひとつふたつみっつ




一冊の本。

一章と二章、とに分けられているが、流れている月日時刻場所などは、はじまりからおわりまで、まったく同一のもの。目線が違うということで、読み手側は2つが異なる物語だと錯覚する、或いは実際にすべてが異なっている。


四つの眼球、四つの耳、二つの口唇、二つの鼻、四十本の指。それらの数すら、実際は定かで無いという意識。それをもっているべきだよ、と右耳元で囁く女。




空を飛ぶ魚になる夢。

地上に立っているくちばしをもつ青年には耳がなく、わたしたちは視線だけで会話ができる。きょうは、果物をもってきたよ、と彼の目は微笑む。わたしはリスの毛皮9匹分であなたに襟巻きをつくったの。

ものすごくあったかいね。

これは蜜蜂のあじがするわね。

くまと仲良くなったんだ。

わたしはリスと喧嘩したの。

おなかがへったよ。

あなたも食べれば?

空は湿気を含んでいて、いつまでもじっとり、重たい。羽根にあぶらを塗らなくちゃ、それがわたしの口癖。彼のくちばしはきれいな黒。





まぶたのおもりに右往左往。

ぐっすりねむれそう。










いわざる



あけましておめでとうございます。



今年のお正月も、実家に帰って参りました。


わたしの実家は山の上にある町で、帰省し夜を迎える度に、静かだ、そう痛感する。夏の夜には虫たちの鳴く声が耳までとどくのだけれど、冬には、しん、としています。ぽつりと佇む外灯が、寂しげに灯っているだけなので、じぶんの鼓動だけがトクトクきこえてくるようで、このせかいには他にだれもいないんじゃないかとさえ、感じたりして。



そう、実家のお風呂、湯船に浸かっていたのは、きのうの正午過ぎ、真冬でもあたたかい気候で、磨り硝子から差し込む日差しと、窓の隙間から聞こえてくる近所の人たちの談笑の声が、まぶしくて、あたたかかった。


わたしは " 遅くできた子 " らしく、両親はすっかり還暦も過ぎており、実家と呼んでいるこの一軒家には、両親二人と猫二匹が住んでいて。

去年くらいから、この町に帰ってこようか、なんて、真剣に考えたりする。


だけど、まだまだ、

歪んでる螺旋。

じゃなくって、

さよなら、っていうのなんて実際過去に幾度もあって、これまでわたしは残念無念の精神でやってきた。そのときのわたし、が、限界、って感じたら、終わりにしましょ、ってこともあった。それって何もおかしくない。そのときのわたしには限界だったから。

思考し続けているのは、自らの死と天秤にかけられるほどの何か、を失ったとき、もしくは、失いそうなとき、の、瞬間瞬間で自らが創り出し続ける迷宮のような建物 ( もしくは、何も通じ合えない或るもの ) と、如何に対峙するか、というようなこと。

こういうことをおもいつづけているのは、救われたいとおもって自ら選び進んだ先の先の先の先の先、のどこにも、救いはみつかっていないという事実が存在する、ということに等しい、のだとおもう。

ほら、完全に脱線していて、故に自身の問題だとわかる。だからこそ、ずるずるやっていられないし、ずるずるやっているつもりもない。

わたしはきっと、薄情で。

ひどく視野が狭い。




吹く風に 高峰の雲も はれ行きて

涼しく 照らす 十五夜の月



きのう、ひいたおみくじに、書いてあった。母は、あたしなんて末吉よ〜、とぶうたれていた。父は、神社さんの小石につまづいてウッと呻いていたから、腕を組んで歩いた。すごく、あたたかかった。


神社さんからの帰り道、車の窓をあけると、烏がたくさん飛んでいくのがみえた。どこに向かったのだろ。


実家にて、たらふく、おいしいものを食べた。鱈腹、ふくふく。

親、という生き物はふしぎだ。

ありがとう、なんかじゃ足りない。



もうすこし、トーキョーにてがんばってみようとおもう。



どうしても、冬はさむい。




ゆめうつつ



いつかのとおい日、未来の為に真赤なとさかを切り落とした友人、からの連絡。彼はすっかり、雌鶏のようになっていた。あの頃、わたしは ----- に憧れていて、夢ばかりみていたようにおもう。そして、あの頃がいちばん神さまに近かったのかもしれない。わたしはわたしがすきだった。




ことばを紡ぐあのこ、眉毛を剃り落とすあいつ、うたをうたいつづけるあのひと、踊れなくなったきみ、爪を噛むわたし、


まちがいさがしのこたえを、だれか、しってる?




逃げるように、進みつづけようとするけれど、あいつは、気づくと、わたしの踵のそばにいる。するする、なんていう音もたてずに、きもちよさそうに、何にも抗うような様子などなく。わたしはそれが、何よりもおそろしいのだ。わたしにしかみえない、あいつの話。




ただのポーズになら、興味が無い。



死んでもいいから、いこうかな。

わたしは、わたしをずっと待っていたのだ、と知る。

熱が、下がらない。



部屋の中、息が白い。